
「釣りがしたい」は最強の武器。釣り好き青年が挑む、五島列島で住民に寄り添う集落支援
公開日:2026/03/11 01:26
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2026/03/112025年10月、長崎県新上五島町に一人の地域おこし協力隊が着任しました。山下薫大(28)さんは、幼少期から一貫して魚釣りが好きでした。大学で水産を学び、前職は大手釣具メーカーで企画に携わってきた、根っからの釣り人です。「とにかく毎日のように釣りをしたい」という純粋な動機で移住した彼ですが、その情熱は今、地域住民の懐に入るための「集落支援」の強力なツールとなっています。
山下さんのミッションは、集落を巡り、住民の小さな困りごとを拾い上げること。「地域おこし」という言葉を気負わず、一人の住民として、地域に溶け込んでいく。そんな山下さんの、地道な対話から始まる新たな集落支援の形を紹介します。
幼稚園からの夢を貫き、釣りの聖地「新上五島町」へ
山下さんのこれまでの歩みは、驚くほど一貫して「魚」と共にありました。福岡県みやま市で育った幼少期。周囲が特撮ヒーローなどに夢中になる中、幼稚園の卒園アルバムに記した将来の夢は、迷わず「おさかなやさん」。小学校の図書室では、流行の物語には目もくれず、釣りの専門書をボロボロになるまで借りては暗記する日々を過ごしていました。 その情熱は成長しても衰えることなく、人生の選択基準となりました。国立大学水産学部へ進学し、マダイの増養殖を研究。卒業後は滋賀県の大手釣具メーカーへ就職し、ルアーやロッドといったギアの企画に5年間没頭しました。まさに「好きなことを仕事にする」キャリアを築いてきました。
しかし、滋賀での釣りは週末に限られ、満足のいく釣果もえられませんでした。一人の釣り人として「九州のような豊かな釣り場のそばで暮らしたい」という欲求は、常に彼の中にありました。そんな時、スマウトで全国の移住先を調べていたところ、離島自治体が募集する地域おこし協力隊の記事を見つけました。移住先を検討する際、対馬やトカラ列島など、多くの候補から新上五島町を選んだ理由は、戦略的な「釣り人目線」でした。
「島が大きすぎると風や波などの状況に合わせて釣り場を移動するのが大変ですが、上五島は移動しやすくてちょうどいいサイズ感。それに、協力隊の待遇として任期中の給与のほか、住宅が無償で確保されている安心感も大きかったです」と振り返ります。 「釣りができる環境」を求めて動き出した山下さんですが、協力隊という働き方を選んだのには、もう一つの理由がありました。「人と話すことは苦にならず好きな方です。集落を回って住民の話を聞く仕事なら、自分の性格が活かせると思いました」。釣り人としての情熱と、人懐っこい性格。その二つが重なった先に、新上五島町での集落支援という形が見えてきました。
自分自身のライフスタイルを最高のものにするための戦略的移住。着任当時の心境を「とにかく釣りができる環境がうれしかった」と語る山下さんですが、その純粋な情熱が、後に集落支援において、予想もしなかった形で実を結ぶことになります。


日常の「困りごと」に寄り添い、釣り人の目線で守る島の景色
集落を回る中で、山下さんの耳に届く最も切実な声の一つが「イノシシ」による獣害です。 「どこに行っても、畑をやっている皆さんはイノシシの被害を口にされます。ワイヤーのメッシュ柵を張っても、あいつらは賢くて掻い潜ってくるんだ、と。」 山下さん自身、イノシシの専門家というわけではありませんが、集落支援のミッションとして、現場の状況を丁寧に聞き取っています。鼻の力が強く、人間の匂いに敏感なイノシシに対して、住民がどれだけ苦労しているか。そのような困りごとに寄り添い、情報を整理して役場担当部署へと繋ぐ。こうした地道な聞き取りが、解決に向けた第一歩となっています。
また、釣り愛好家としての視点からも、地域への貢献を考えています。昨今、SNSの影響などで特定のポイントに釣り人が集中し、ゴミ問題や駐車トラブルによって「釣り禁止」になる場所が増えている現状です。これは、地域住民にとっては生活の平穏を脅かす問題であり、釣り人にとっては大切なフィールドを失う痛手です。 「住民の皆さんが困っている声を直接聞くからこそ、釣り愛好家の目線として、観光釣りと住民の生活を分ける工夫が必要だと感じています」 そこで山下さんが構想しているのが、マナー啓発を目的とした「釣り場マップ」の提案です。行って良い場所と、避けるべき場所を明確にし、フェリー乗り場や宿泊施設に設置する。これは決して協力隊の主力業務ではありませんが、地域住民と釣り人の両方の気持ちがわかる彼だからこそ出せる、一つのアイデアです。
地域おこしという言葉を大きく掲げるのではなく、まずは一人の住民として、目の前の人の困りごとに耳を傾けること。そして、自分の好きな「釣り」というフィルターを通じて、島の環境を守る方法を模索すること。山下さんのそんな等身大の姿には、移住者が地域と持続的な関係を築くための、一つの真理が隠されているようでした。


カギは魚と猫!?住民の懐に入る独自の仕事術
山下さんのメインミッションは集落支援としての活動です。過疎化が進む集落を巡り、住民との対話を通じて地域の現状を把握し、課題解決の糸口を見つけること。20代の若者が、歴史と伝統のある離島のコミュニティに受け入れられるには、独自のコミュニケーション術が必要でした。
そこで活かされたのが、山下さん流の「不意打ち」と「共通言語」です。
「実際集落へ行くようになって実感したことですが、路地の角を曲がったところでばったり出会うような距離感の方が、かえって警戒が解けやすい。じわじわ近づくと構えられる時間が長くなってしまうので」と山下さんは笑います。さらに、路地裏の猫を撫でていると、自然と住民から「兄ちゃんどこから来たと?」と声がかかる。猫を介した会話から、少しずつ顔を覚えてもらう日々が始まりました。
そして、最も大きな突破口となったのが、彼自身の「釣果」でした。
「出勤前に早朝から釣りに出て、集落の集まりがある日は朝釣りたてのブリやヒラマサを差し入れしています」。その場にいる皆で切り分けてお裾分けする。そんなやりとりが自然と心の距離を縮め、気づけばいろんな話を聞かせてもらえるようになっていました。 五島列島ブランドとして都会に出荷されるような新鮮な魚を「釣れたので」と笑顔で届ける。釣果を共有することで築かれる信頼関係。それは、形式的な「役場にいる地域おこし協力隊」という枠を超え、一人の「魚に詳しい青年」として、住民の懐に深く入り込むことにつながりました。
着任して約半年。今はまさに、信頼関係を築くフェーズです。いくつかの集落を定期的に訪問し、お年寄りが集まる商店や公民館に顔を出す。一緒にご飯を食べ、他愛のない世間話を交わす中で、住民たちは少しずつ、普段の暮らしの中にある「小さな困りごと」を山下さんに漏らし始めました。「最近はバスの便が減って困る」「公民館のカラオケをもっと活用したい」。
山下さんは「自分はマメな性格ではない」と言いますが、住民の横に座り、じっくりと話を聴くその姿勢こそが、集落支援に携わる人として最も大切な「信頼」という根を、島に張らせていっています。
【取材後記】 今回の取材で印象的だったのは、山下さんの「聞き上手」な一面です。自分の意見を押し付けるのではなく、まずは住民の隣に座り、同じ目線で話を聴く。その自然体な姿こそが、地方コミュニティの扉を軽やかに開けているのだと感じました。 そして取材を重ねるうち、筆者が驚かされたのがその「釣りガチ勢」ぶり。仕事以外の時間はほとんど釣りメインの日常を送っていました。自分の「好き」を原動力に、目の前の人の困りごとに耳を傾ける。山下さんのような「自分に正直な貢献の形」が増えることで、離島の未来はもっと風通しの良い、面白い場所になっていくのではないでしょうか。


このプロジェクトの地域

新上五島町
人口 1.50万人

新上五島町が紹介する新上五島町ってこんなところ!
この島は、自然との距離が近い。 時を忘れて浸ることができる。 街を歩けば、神社仏閣、教会など、 歴史や文化が生活に溶け込んでいる。 町民の気質は「お互い様」。 訪問客とも飾り気のない触れ合いをする。 この島にいる間は、時間に縛られなくていい。 自分の体内時計に従って、 のんびり自由に過ごすことができる。 頭と心をリセットし、 自分のやりたいことを見つけよう。
私たちは、世界中の人たちに、 自分と向き合う時間を提供します。
このプロジェクトの作成者
・新上五島町は、長崎県五島列島(九州の西端)に位置する島で、7つの有人島と60の無人島で構成されています。 ・新上五島町は細長い島で、山々が連なり入り組んだ地形をしており、リゾート地のようなエメラルドグリーンの海や水平線に沈み島を赤く染める夕陽、圧倒的な自然や教会群が魅力です。 ・島には、コンビニ、スーパー、ドラッグストア、ホームセンター、病院、学校(大学を除く)等の施設があり、生活するうえで必要なものは島内で購入することが可能です。 また、漁業・農業・建設業・医療・介護・交通・各種サービス業等、様々な業種があり特産品の「五島手延うどん」や「椿油」、「かんころもち」等の製造業もあるなど歴史や文化を感じながら働くことができます。 (新上五島町公式HP:https://official.shinkamigoto.net/) (新上五島町観光HP:https://shinkamigoto.nagasaki-tabinet.com/) (新上五島町移住HP:https://kami510.com/)



















