55歳、会社員を辞めて沖縄へ—「本当にやりたいこと」に踏み出した人生の転機
公開日:2026/09/14 03:28
~中城湾を見守る、歴史と産業が息づく村~ 北中城村は、沖縄本島の中部に位置する人口約18000人の村です。東シナ海に面し、美しい中城湾の海岸線が特徴。国指定史跡の中城城址跡や重要文化財の中村家住宅等、文化が息づく地域です。また、自然に恵まれた土地で、産業としては漁業と農業があります。しかし、近年高齢化や担い手不足という課題も抱えています。特に、中城干潟で採れるアーサ(ヒトエグサ)が有名で、沖縄の食文化を支える重要な地域です。近年の大きな変化として、2015年の大型商業施設の進出に伴い、観光の活性化にも力を入れており、地域の新しい魅力づくりが進行中です。
豊かな海の恵みと歴史文化に加え、沖縄の長寿を支える食に関わる産業を持つ北中城村。自然と人が共生し、世代から世代へと知恵と技術が受け継がれていく地域です。そんな北中城村で2026年4月から地域おこし協力隊として、北中城村漁業協同組合で海産物の養殖に関わる活動に取り組んでいる長内泰造さんにお話を伺いました。
まずは"教わる"一年
取材の日は、現在試験的に養殖している牡蠣の成長具合を確認する日。船で沖まで稚貝を見に行くとのことで、経過観察や作業に同行させてもらうことに。これから始まる種付けや養殖の工程を学んでいる最中でした。 現在長内さんは、養殖のノウハウを持った県内外の民間企業や地元の漁師さんたちと連携しながら、沖縄での牡蠣養殖の手法確立を目指して活動しています。また、春に収穫したアーサの商品化に向けて、砂や他の海藻などの異物を取り除く作業、乾燥・冷凍加工を担当。販売先への納品にも同行し、商品が消費者へ届くまでの流れを一つひとつ覚えているところです。
「まずは1年かけて、季節ごとの仕事を一通り経験したいです」
そう語る長内さん。1年目は基礎を学び、2年目には実際の養殖にも主体的に関わることを目標にしています。
「お世話になっている地域に、少しでも恩返しができたと思える瞬間が一番うれしいですね」
その日に予定していた作業が終わること。 台風で傷んだ設備を安全な状態に戻せること。 少しでも漁協の役に立てたと感じられること。
そうした瞬間が喜びになるといいます。
一方で、“自分は本当に役に立てているのだろうか”と考えることもあると言います。
「ロープの結び方を忘れたり、道具の置き場所が分からなかったりするんです。そんな時は、『もう一度学び直そう』と前向きに受け止めています」
そう笑顔で話す長内さん、実直な性格で職場からも信頼され、応援される存在になっていました。
定年まで勤めるつもりだった会社員が、協力隊を選んだ理由
神奈川県出身の長内さん。前職では化学メーカーの製造職として、福島での工場立ち上げや東日本大震災後の復旧にも携わるなど、会社の一員として30年歩み続けました。
一方で、いつか自然や生命に関わる仕事がしたいという想いだけは、心のどこかに残り続けていたといいます。 転機となったのは50代に差し掛かった年。職場で同僚から相談を受けるようになり、適切なアドバイスをするために心理学やカウンセリングを学ぶことに。その中で自分自身を振り返る機会が増えました。
「会社が嫌だったわけでも、不満があったわけでもありません。ただ、自分が本当にやりたいことを、残りの人生で挑戦したいと思ったんです」
そんな中で、北中城村の地域おこし協力隊の募集を見つけました。
「移住してくるなら、もっと若い人の方がいいのではないかと思いました。55歳という年齢で、『人口は一人しか増えませんよ』と面接で正直に伝えたほどです」
以前から海藻や微生物など自然環境に興味があり、アーサやもずく、海ぶどうなどの海産物について調べるうちに、沖縄の長寿と海洋生物の関連性に興味を持つようになります。そして、沖縄の豊かな自然を守りながら活かす仕事に携わりたいという思いが強くなっていきました。また、漁業の後継者不足という地域の課題を知り、自分の経験が北中城村に少しでも役に立つなら挑戦してみたいと決意します。
移住という大きな決断だったからこそ、迷いが生まれるときもあると言います。 しかし、北中城村に移住してから、長内さんにある変化が起こりました。
「子どもの頃は、夢の中でお腹を抱えて笑って目が覚めることがあったんです。会社員時代には何十年もその夢を見なかったんですけど、北中城村に来てから、笑って目覚める夢を見るようになりました。」
協力隊として活動を始めてから、北中城に移住してから幼い頃に見た夢を見るようになったという長内さん。 いまは、地域の夢を形にして、笑顔をつなげるためのお手伝いをしています。
人生を預かるということ
「面接のときに、長内さんの正直で誠実なところがとても印象的でした」
そう語るのは、長内さんの面接を担当した、村役場農林水産課の職員の棚原さん。
「地域おこし協力隊は、その人の大事な人生がかかっています。受け入れ自治体は、その人生を預かるようなものだと思うんです」 北中城村では過去に、観光分野で地域おこし協力隊が活動していました。村のPRや観光協会の立ち上げから観光振興に関わる活動まで、幅広い活動に従事していました。当時も協力隊を担当していた棚原さんは、様々な人生模様を見ていく中で、人に寄り添う大切さを学んだと言います。
「長内さんの北中城村で実現したいことへの想いと誠実な人柄が決め手でした。これまでの安定していた職を手放してこちらに来てくれるということで、責任重大だと感じています」
受け入れ側である自治体も、協力隊の任期後の将来まで見据えています。アーサ養殖だけでなく牡蠣養殖という新たな事業で漁業収入を安定させる道筋を考え、今後は技術支援や事務手続きを進めながら、長内さんの海人(うみんちゅ)への道を着実に歩めるよう寄り添った支援を続けているのです。
自治体・受入機関・協力隊の三者が、地域の海産物資源を守り活かすという共通の目標に向かって協働することで、高齢化と後継者不足という課題を乗り越え、沖縄の食文化と漁業の未来を次世代へ受け継いでいく——その営みが、いま静かに始まっています。
写真提供:長内泰造、筆者(外山) 取材日:2026年7月3日
このプロジェクトの地域
沖縄県全体
人口 146.82万人
おきなわ島ぐらしが紹介する沖縄県全体ってこんなところ!
エメラルドブルーの海に囲まれ、ゆったりとした時間が流れる沖縄。那覇の街歩きや国際通りのにぎわいもあれば、少し足を延ばすと集落の古民家や赤瓦屋根が残り、地域ごとの暮らしの営みが息づいています。島ごとに異なる伝統芸能や食文化が受け継がれ、祭りや行事を通して地域の人とのつながりを感じられるのも魅力です。観光地として知られる一方で、日常には市場での買い物や浜辺の散歩、庭先での交流など、温かな人との触れ合いが広がっています。都会の便利さと島ならではの自然、そして多様な文化が共存する沖縄は、暮らす人にとっても発見と喜びにあふれた場所です。
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人口 1.64万人
このプロジェクトの作成者
沖縄移住に向けた情報発信 沖縄県では、沖縄県移住応援サイト「おきなわ島ぐらし」において、沖縄移住・沖縄暮らしの「今」を発信しています。移住相談会や移住体験ツアーなどの開催案内をはじめ、『住む』『働く』『支援』『子育て』『医療』5つのカテゴリー別に支援機関などの紹介を行っているほか、市町村の生活環境や移住定住に活用できる支援制度の情報など、沖縄移住の情報収集に役立つ情報を掲載しています。