
【おといねっぷ活性化起業人紹介】Vol.2
公開日:2026/06/17 04:04
【村に眠る8ミリフィルムで、みんなと作る「地域映画」】
企業が社員を自治体に派遣し、地域貢献活動を支援する総務省の制度「地域活性化起業人」。 地域の課題解決のために、専門的なノウハウや知見を持った社員が即戦力として活躍するこの制度で、音威子府村の活性化を目指す起業人たちがいます。
映画監督の三好さんとプロデューサーの小町谷さんによる「まなざしのアーカイブ」が進めようとしているのは、家庭に眠る8ミリフィルムを掘り起こし、それを地域の共有資産へと変えるプロジェクトです。
取材日/2025年10月
地域の映像を集めて1本の映画を作るという試み
音楽番組やニュース番組を制作していた三好さんが本格的に8ミリフィルムと向き合うようになったのは、知人の結婚式で流すビデオの制作を頼まれたことがきっかけでした。受け取ったのは、新婦の生い立ちを綴った写真と複数の8ミリフィルムです。「見てみたら涙が止まらなくなってしまって。お父さんがひたすら娘さんを撮っているだけの、言ってしまえば下手くそなホームムービーでしたが」。
その映像から感じたのは、娘を愛おしむ父親のやさしい眼差しでした。 心が揺さぶられた8ミリフィルムとの出合いが、三好さんの人生を大きく変えることになります。その頃、富士フイルムが8ミリフィルムの販売を終了することが報道されました。
貴重な映像文化が失われることへの危機感を抱いた三好さんは、映画監督たちに取材した映像を作って富士フイルムに送りました。「大林宣彦監督をはじめ、8ミリで映画の世界に入った監督たちが『文化の喪失だ』と訴えてくれて、販売が3年間延長されることになったんです」。
しかしその後、8ミリフィルムは静かに消えていきます。自分に何ができるかを考えていた三好さんに、知人が紹介してくれたのが地域に関わる文化活動を助成する墨田区のプログラムでした。「生まれて初めて企画書を書き、地域の8ミリフィルムを集めて映画を作るアイデアが無事に採択されました」。およそ1年をかけて、『8ミリの記憶』という作品が完成します。
「地元の神社で上映会を開いたら近所の人がたくさん来て、みんなすごく喜んでくれて」。その様子を見た三好さんは、地域の映像を集めて映画を作ることの意義を改めて再確認しました。
一方の小町谷さんは、家庭の事情で精神的に苦しんだ高校時代を経て、大学に進学した後も悩み事を抱えながら生きていました。その時に逃げ場となったのが映画館でした。
さまざまなジャンルの映画を観た小町谷さんは、何本かの映画に深い感銘を受けます。「自分が悩んでいることに近い内容で、自分も同じように生きづらさを感じている人に何かを届けられるかもしれないと思いました」。映画の魅力について、小町谷さんは「映画の主人公は善人だけではありません。とんでもない悪者も主役になれます。善悪を超越した映画の存在に救われました」と語ります。
その後、大学を辞めて自主映画を作り始めた小町谷さんは、ある映画制作会社の社長が運転手を募集していることを知り、脚本を持ち込みました。「脚本の出来は二の次で、社長が『変なやつだ』と面白がってくれて、そのまま住み込みで働くことになったんです」。
映画の現場で経験を積むうちに、小町谷さんの中で違和感が大きくなっていきます。「日本映画バブルが弾けた頃で、倒産する会社も珍しくありませんでした。誰かの発想を具現化するために他の誰かが不幸になる、本当にそれでいいのだろうかと」。小町谷さんはフィクションからドキュメンタリーへ舵を切ります。「現実の社会で人々が何をしているのか、何を考えて生きているのか、それが知りたいと思うようになりました」。


2人の出会いから生まれた「まなざしのアーカイブ」
そんな三好さんと小町谷さんが出会ったのは3年前のこと。きっかけは小町谷さんが取り組んでいた映画のバリアフリー化運動でした。目が見えない人や耳が聞こえない人たちに映画を届ける活動の中で、三好さんが制作した『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』という映画の存在を知ったのです。「その映画を札幌で上映しようという話になって、三好に連絡を取りました」と小町谷さん。ちょうどその頃、小町谷さんが活動していた厚真町でも、偶然見つかった古い8ミリフィルムの上映会がありました。
その時に町の人から「この8ミリフィルム、何かに使えないかな」と聞かれた小町谷さんは、「一緒に何か作ろう」と意気投合した三好さんとタッグを組んで「あつまフィルムコモンズ」を立ち上げました。
町民から8ミリフィルムを集め、住民と協働で映画を製作する団体です。三好さんはその活動を「地域映画」と呼んでいます。「その土地のフィルムをその土地の人たちと作って、その喜びを自分たちで味わう。古いものを今いる人たちと一緒に創ることによって未来に届けるというコンセプトです」。
三好さんが地域映画という明瞭な名前を使い始めると、全国各地から「うちでも地域映画をやってほしい」と声がかかるようになりました。それが今回の音威子府村での地域活性化起業人へとつながります。この地域映画プロジェクトに強く共感した面白法人カヤックの天坂さんが、一般社団法人として発足したばかりの「まなざしのアーカイブ」を遠藤村長に紹介したのです。

家庭の記録から地域の記憶へ、広がる未来
三好さんと小町谷さんが強調するのが、8ミリフィルムが持つ独特の力です。
三好さんは「50年前のフィルムを映すと、過去の時間がそのまま再現されます。粒子が粗くフレーム数も足りない映像を、みんなが想像力で補完していくんですよ」と説明します。この「足りなさ」こそが重要なポイントです。現代の高画質映像にはない余白と隙間が、見た人たちの記憶を呼び覚ますのです。
「家族だけで楽しんでいた記録が、50年を経て発酵して、地域の記憶に変わります。もっと大きな意味では日本全体の、あの時代の空気感を知っている人たちの共通の記憶になるわけです」と語る三好さん。小町谷さんは、ホームムービーを中心とする理由について「学校で習う歴史ではなく、その時代に生きた一人一人の物語を映像の形で引き継いでいく。それが、我々が考えるコミュニティアーカイブです」と言います。
地域映画の上映後には、同じ映画を見た10代から80代までの世代が話し合う場を設けます。「さあ対話しましょうと言っても難しいですよね。でも、その土地の物語の断片を見た後だと記憶が蘇ります。若い世代は知らなかった地元の歴史に興味が湧く。上映後のコミュニケーションは、本当に有意義な時間なんです」と三好さん。地域で失われつつあるものを思い出し、きちんと懐かしむための重要なプロセスです。
2人がこの活動を急ぐのには理由があります。「8ミリフィルムで撮影していた人たちが高齢になり、フィルムも劣化している中で、早急にそれを集めてデータにする必要があります。手遅れになれば、撮影された貴重な記録が無になってしまうんです」。8ミリフィルムのデジタル化を扱える環境やスタッフも限られる中、失われていくフィルムも膨大にあり、なんとか歯止めをかけたいという思いから日夜奔走しています。
まなざしのアーカイブでは、音威子府村でも村民と連携して地域映画の取り組みを進めていきます。「できれば、村の小中学生やおといねっぷ美術工芸高校の生徒たちとも一緒にできたらと思っています」と小町谷さん。まずは8ミリフィルムを集めることから始まります。「フィルム1本の撮影時間は3分。その中で気合いを入れて撮っていたんです」と三好さん。その撮影姿勢の違いが最終的なアーカイブの力に影響するといいます。
さらに小町谷さんは「ここで収集したフィルムや全国各地の映画を上映するためのシアターを作りたいですね。そして、普通の映画も上映するような“村の映画館”として、地域の皆さんと一緒に上映プログラムも考えられたら嬉しいです」とプロジェクトの将来像を見据えます。三好さんも「人口600人の村に映画館ができたら、それだけで話題になりますよね。高校生たちにとっても成長の場になるはずです」と語ります。
カメラを通して被写体に向けられたまなざしの中にある、普遍的な愛情。 温かいまなざしの刻まれた8ミリフィルムが、やがて地域全体の共有資産に変わり、新たな文化を発信する基地を生み出す——音威子府村で始まったその動きを、みんなで「まなざして」いきましょう。


このプロジェクトの地域

音威子府村
人口 0.06万人
北海道音威子府村が紹介する音威子府村ってこんなところ!
北海道のほぼ中心に位置する旭川市と、最北の稚内市のほぼ中間に位置するところに、人口が600人ほどの北海道で1番小さな村(おといねっぷ村)があります。
過疎最先端地で人口は少ないけれど、その分唯一無二な地域資源(人・文化・鉄道・村立美術工芸高校・木工・芸術などなど)が沢山あります。どこの地域よりもスピード感があって、おもしろいことに敏感で、能動的でチャレンジできる方を求めている地域です。


















