偶然の積み重ねと縁に導かれた、山中温泉。 古着と古本の店主が語る「居場所づくり」vol.1
公開日:2026/08/21 04:53
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2026/08/23「いつか地方で、自分らしい暮らしや仕事を始めてみたい。」
そう思っていても、実際にどこで、どのように始めればいいのか。最初から明確な答えを持っている人は、そう多くないのかもしれません。
山中温泉で古着と古本のお店「COSMO」を営む重吉祐輔(しげよし ゆうすけ)さんも、最初からこのまちでお店を開くことを決めていたわけではありません。人との出会いや偶然の積み重ねの中で山中温泉にたどり着き、今では自分らしいお店、そして居場所を、お客様とともにつくり上げています。
山中温泉に「COSMO」を構えて1周年。お店を営みながら、日々、居場所づくりを模索している重吉さんのお話を通して、自分らしい暮らしや生き方について、一緒に考えてみませんか?
〈プロフィール紹介〉
重吉祐輔(しげよし ゆうすけ)
山中温泉で古着と古本のお店「COSMO」を営む。 石川県小松市出身。 エンジニアとしてキャリアをスタートしたが、転職で広島、東京で働いた経験を経て、2021年に加賀市の地域おこし協力隊としてUターン。 「高校魅力化プロジェクト」のメンバーとして、高校生の探究支援と居場所づくりに携わる。 2025年7月にお店をオープンさせた。
〈店舗紹介〉
COSMO USED CLOTHING AND BOOKS(石川県加賀市山中温泉富士見町オ33)
Instagram:cosmo_used
COSMOにつながる、教育という原点。
■COSMOの根っこにあるもの
COSMOは古着と古本のお店です。でも、ただモノを売るだけのお店ではありません。
僕にとってCOSMOは古着と古本のお店であると同時に「居場所づくり」の延長にある場所です。
お店を始める前、僕は加賀市の地域おこし協力隊として、教育の仕事に携わっていました。高校生の探究支援や、中高生向けのサードプレイスの運営など、学校でも家でもない場所をどうつくるか、ということを考える機会が多くありました。でも、最初から「居場所をつくろう」と思ってCOSMOを始めたというより、教育の仕事に向き合う中で、自分が本当にやりたかったことが少しずつ見えてきた感じです。
■30歳手前、自分の軸を探していた
もともと教育にはずっと興味がありました。 ただ、大学は工学部で、最初の仕事もエンジニア。その後も製造業など、教育とは離れたところで働いていました。でも20代の終わりが見えてきた頃に、「この仕事をこのまま続けていくのかな」とか、「自分が生きていく道を、20代のうちに見つけたい」という気持ちが強くなっていきました。それで、何かしら教育に関わる仕事ができないかと思い、教育系の仕事を探していました。
そんな時に見つけたのが、加賀市の「高校魅力化プロジェクト」の地域おこし協力隊の募集でした。加賀市なら実家の小松市からも近いし、「これだ!」と思って、見つけたその日に履歴書を書いて、翌日に提出したのを覚えています。
■未経験だけど、教育の現場へ
教育の仕事は未経験だったので、最初は分からないことだらけでしたが、高校生の探究活動のサポートや、中高生が放課後に過ごせるサードプレイスの運営など、学校の授業だけではない教育の現場に関わることが増えていきました。
その中で面白かったのは、勉強を教えるというよりも、生徒が自分の興味や違和感を見つけて、それをどう形にしていくかを一緒に考える時間が多かったことです。何かを一方的に教えるというより、その人の中にあるものを引き出したり、安心して話せる場をつくったりすること。 そういう関わり方が、自分には合っているのかもしれないと思うようになりました。
古着と古本を入口にした居場所づくり
■居場所づくりの難しさ
教育の仕事の中では、中高生向けのサードプレイスの運営にも関わっていました。学校でも家でもない居場所があることは、すごく大事だと思っています。特に地方では、学校と家以外に、子どもや若い人がふらっと立ち寄れる場所が少ないと感じていました。
ただ、実際に運営してみると、「居場所をつくる」ということの難しさも見えてきました。「ここはサードプレイスです」「居場所です」と言えば言うほど、逆に来る側にとっては少しハードルが上がってしまう感覚がありました。本当に居場所を必要としている人ほど、自分からそういう場所に入っていくのは難しいこともあります。
また、行政の事業として行う場合、誰にでも開かれていることや、公共性があることは大切です。一方で、少人数のために継続して場を運営していくことには、予算や制度の面で難しさもあります。行政だからこそできることもたくさんありますが、行政だけでは届きにくい部分もある。そのことを、実際に関わる中で感じるようになりました。
サードプレイスの運営に関わる中で思ったのは、「居場所をつくる」と正面から言いすぎるほど、逆に少し不自然になってしまうのかもしれない、ということでした。本来の居場所って、最初から「ここは居場所です」と用意されているものだけではないと思います。
たとえば、昔の駄菓子屋だったり、喫茶店だったり、公園だったり、友達の家だったり。何か別の目的があって行っているうちに、気づいたらそこが自分にとって落ち着ける場所になっている。そういう自然さが大事なのではないかと思うようになりました。
誰かにとっての居場所は、ひとつあればいいというものでもありません。勉強できる場所、何もせずにいられる場所、趣味の話ができる場所、少しだけ誰かと話せる場所。人によって必要な場所は違うし、同じ人でも時期によって必要な場所は変わると思います。だから、地域の中にいろんな種類の居場所があることが大事だと思いました。 その中で、自分だったらどんな入口をつくれるだろうと考えた時に、古着と古本という切り口が浮かんできました。
■入口が広い古着と古本から生まれる居場所
古着と古本にしたのは、自分が好きだったということもありますが、それだけではありません。
服や本は、誰にとっても比較的入りやすい入口だと思っています。古着が好きな人もいれば、そこまで詳しくなくても「このデザインかわいいな」と思って手に取る人もいる。本も、普段からよく読む人だけではなく、表紙やタイトルに何となく引っかかって手に取ることがあります。そういう古着と古本の入口の広さが、居場所づくりと相性がいいのではないかと思いました。
「居場所に来てください」と言われると少し構えてしまうけれど、「服を見に行く」「本を探しに行く」なら、もう少し自然に入ってこられる。そこで何かを買ってもいいし、買わなくても、少し話したり、本を読んだり、ただ店内を眺めたりしてもいい。
古着と古本は、商品でありながら、会話のきっかけにもなります。 このTシャツが好き、この本を読んだことがある、この映画が気になる。そういう小さな引っかかりから、人との距離が少し縮まることがあります。
だから僕は、古着と古本のお店という形なら、人が自然と訪れ、気づけば安心して過ごせる場所になっている。そんな居場所を、自分なりにつくれるかもしれないと思いました。
偶然の積み重ねと縁に導かれて辿り着いた場所
■物件探しのリアル
実際に物件を探してみると、地方で物件を見つける難しさ、お店をはじめる難しさを痛感しました。空き家のように見えても、そもそも貸し物件なのかどうか分からない。看板が出ているわけでもないので、持ち主が誰なのか、誰に聞けばいいのかも分からない。また、貸すより売りたいという方が多く、気軽に「ここを借りてお店を始めたいです」とはいかないケースも。
加えて、温泉地ならではの土地の事情もあって、境界が曖昧だったり、建物としては魅力的でも不動産として扱うには難しかったりもする。都会のように、不動産サイトを見て、条件に合う物件を内見して決める、というようにスムーズにはいきませんでした。
そんな中で、山中温泉に気になる建物がありました。雰囲気はすごく良かったのですが、誰が持っている物件なのか、そもそも借りられる場所なのかも分かりませんでした。そこで、Instagramのストーリーに「この物件のことを知っている人はいませんか?」と投稿したところ、投稿を見た方から「その建物ではないけど、よかったらうちの物件を使わない?」と連絡をいただきました。
その方が、今のCOSMOの物件の持ち主でした。実際に見せてもらうと、状態もかなり良くて、少し手を入れればすぐに使えそうな場所でした。もちろん不安はありましたが、物件探しにかなり苦労していたこともあって、「ここならできるかもしれない」と思いました。
■小さな繋がりが重なって生まれた場所
振り返ると、山中温泉を選んだというよりも、物件探しを進める中で、仕事や人の縁に導かれながら、少しずつ山中温泉に近づいていった感覚があります。物件探しはかなり苦戦しましたが、普通に不動産情報だけを見て探していたら、今の物件には出会えなかったと思います。SNSで情報を集めたり、人づてに話を聞いたり、まちの人に相談したり。その過程で、山中温泉の人やまちとの距離も近づいていった感覚があります。そうした小さなつながりが重なって、今の場所にたどり着けたのだと思います。
そういう意味でも、COSMOは最初から計画通りにできた場所というより、いろんな偶然や縁の中で形になっていった場所だと思っています。
■教育の仕事の続きをCOSMOで
こうしてCOSMOは、山中温泉で古着と古本のお店として始まることになりました。単に商品を売るためだけの場所ではなく、教育の仕事に関わる中で考えていたことや、サードプレイスの運営を通して感じていたことを、自分なりのやり方で形にした場所です。
もちろん、行政の事業として行う居場所づくりと、個人でお店を営むことは全然違います。できることも違うし、届く人も違います。
でも、「誰かにとって、学校でも家でも職場でもない居場所があること」や、「何か別の目的で来た場所が、いつの間にか居場所になっていくこと」の大切さは、今も変わらず感じています。
古着を見に来る。本を手に取る。少し話す。何も買わずに帰る。
そういう何気ない時間の中で、COSMOが誰かにとって少し落ち着ける場所になっていったらいいなと思っています。
COSMOは古着と古本のお店でありながら、僕にとっては、教育の仕事の中で考えていた居場所づくりの続きでもあります。
ーーー
【編集後記】
人との縁や偶然の積み重ねが、少しずつ自分らしい営みや居場所を形にしていく。重吉さんの歩みを通して、最初から明確な答えを持っていなくても、地方で人やまちと関わりながら、自分らしい営みや生き方を模索していく。そんな在り方も、一つなのではないかと感じました。
このプロジェクトの地域
加賀市
人口 5.75万人
山中温泉 移住起業ストーリーが紹介する加賀市ってこんなところ!
山中温泉は、温泉、自然、伝統工芸が魅力のまち。 「ふらっと温泉暮らし」 「豊かな自然に囲まれた暮らし」 「日本の伝統工芸と隣り合わせの暮らし」 そんな暮らしが叶います。
そして、何よりも「本物志向の人」が魅力のまち。 各々が信念を持ち、自分の「好き」や「やりたい」を形にしながら日々を営んでいます。
また山中温泉は1300年もの歴史を持つ温泉観光地。 今でも年間約33万人もの観光客が訪れます。
そんな山中温泉はアクセスも良好。
・金沢・福井まで車で約1時間 ・小松空港まで約30分
最寄りの加賀温泉駅まで車を約20分走らせれば ・東京駅まで新幹線で約3時間 ・京都・大阪駅まで新幹線で約2時間
と関東からも関西からもアクセスしやすい立地です。
このプロジェクトの作成者
私たち、山中温泉地域デザイン研究所は、石川県加賀市山中温泉に特化した「まちづくり団体」です。現役の地域おこし協力隊が対応いたします。