
石垣島の木工×DX──うえざと木工の「働き方」と採用戦略
公開日:2025/10/17 02:28
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2025/11/13チャレンジ石垣島は、石垣島で移住・定住をサポートしています。 そのなかで、石垣島で特長ある採用を行っている会社を紹介したいと思います。 沖縄・石垣島(いしがきじま)を代表する有限会社うえざと木工です。
石垣島で建具・家具製作とCNC/レーザー加工、そして自社DX「Kiinnovator」による業務改革まで手がける“ハイブリッド工場”。工場の現場でタブレットを使った図面共有や在庫発注の仕組み化、Slackによる勤怠・情報共有、時給制×超フレックスな「アシスタント制度」、一工程あたり8カ月ごとに、全8工程の全工程を巡るジョブローテーションなどを導入。
DXと人の成長設計を同時に回す“島のスマートファクトリー”だ。本稿では、現場の課題→行動→変化→未来を一次情報に基づき解説し、石垣発の試みと沖縄本島展開の意義を読み解いていきます。 ※本記事はチャレンジ石垣島が、地域産業で働く魅力を発信・理解促進を目的に取材・公開情報をもとに作成しました。
石垣島(いしがきじま)発全国行き 進化する木工DX
石垣の丘の上、風に乗って木の香りがふわりと流れてくる。眺めは穏やかだが、工場の内側はいつも小さな判断と段取りの連続だ。数ミリの誤差が扉の開閉を変え、一本のビスの種類が仕上がりを左右する。そうした現場でいちばん怖いのは、派手なトラブルではなく、疲れた夕方に起きる「ちょっとした取り違え」や「伝達の抜け」。忙しい日ほど、人は自分の記憶に頼り、紙の図面に赤字を重ね、在庫は「あるはず」に甘える。もちろん、誰もサボっているわけではない。むしろ目の前の仕事を早く仕上げたい一心で、次の手に手を伸ばした結果、後戻りを生む。うえざと木工が向き合ったのは、この“見えない摩擦”だった。何が詰まりの原因で、どこから崩れ始めるのか。議論は「人の頑張りに期待する」から「仕組みで間違えにくくする」へと舵を切る。毎日繰り返す動作の中に、迷いが生まれるポイントはどこか。誰が見ても同じ情報にたどり着ける経路はどう設計するか。まずは現状を直視し、現場が自ら回収できる範囲から順に整える──そんな現実的な改善の積み重ねが、島の小さな工場を着実に変えていった。そして最初に手をつけたのが、在庫と紙の問題である。
課題は、在庫が切れることと「紙」。工場でよくある「言った言わない」や古い図面での製作ミスは、忙しい現場ほど起こりやすい。うえざと木工の現場でも、かつては個人がネジを持ち、長さが混ざって捨てることさえあったという。そこでまず着手したのは、ビスや金物のラベリングと“戻すまでが片付け”の徹底だ。「戻す時に長さを測るのが面倒だから、誰でもすぐ入れられるようにした」。小さな摩擦を消す工夫が、生産性を底上げする。
次に踏み込んだのが在庫の見える化だ。一定量を下回ると、気づいた人がその場で発注できるワークフローを構築。iPadから社内システムを開けば、該当部材の注文画面が一発で立ち上がる。「誰かに伝える作業をなくして、気づいた人がそのまま注文する」。在庫切れという最大のリスクを、現場主導で潰す設計である。
そして“紙の図面”をやめ、タブレットで最新情報をリアルタイム共有。以前は十数枚の紙を配り、修正のたびに印刷し直していた。結果として「古い図面で作ってしまった」という“あるある”が発生していた。今は画面上の寸法追記や変更が即時に反映され、全員の端末で同じ版を参照できる。バージョン違いによる手戻りを、構造的に防げるようになった。
ITは道具であり、現場の知恵が主役だ。うえざと木工は自社システムを外販し、導入先のトレーニングまで自社で行う。現場を知る担当者が、顧客現場の“めんどう”を起点に改善を設計するから、実装が速い。石垣という島の工場で、アナログとデジタルの最適解を更新し続けている。


人を育てる仕組み:超フレックスとローテーション
DX化のアクションは、働く“型”を作ることから始まった。同社ではアルバイト・パートを「アシスタント」と呼び、「いつ来ても、いつ帰ってもいい」という超フレックス運用を採用している。出勤・退勤はSlackの専用チャンネルに一言入れるだけ。社員も含めて時給制に統一し、「休めばその分だけ給与が変わる」シンプルなルールで自律を促す。「LINEには戻れない、Slackが一番いい」。遠隔も多拠点も前提にしたコミュニケーション設計だ。
もう一つの柱が、八カ月ごとのサイクルで全員が工程を回るジョブローテーション。建具、家具、現場…と段階的に難度を上げ、ひと回りした人はメンターとして次の人に引き継ぐ。属人化を断ち、5年と数か月程度で“何でもできる”状態を目指す仕組みで、先輩・後輩の関係性が自然に生まれる。慣れない工程に移る不安はあるが、二~三か月でコツを掴み、やり切った達成感が次の挑戦を呼ぶ。
採用は量より質。「今は募集していないが、どうしても入りたい人だけ検討する」。SNSや地域の求人コミュニティからの反応は多いが、会社の中身を理解している人を選ぶ方が長続きするという。外からの期待と中の現実を、選考時点で丁寧にすり合わせる“ミスマッチ回避”のやり方だ。加えて、インターン受け入れにも積極的。高校生から社会人まで、三~四日の短期体験を中心に現場の空気に触れてもらう。「知ってもらうこと」が最強の採用広報になる。
こうした人の仕組みとDXが噛み合うことで、現場が“自走”する。情報はSlackとタブレットで開かれ、在庫・図面・変更は全員で同期される。多能工化で誰かが抜けても工程が止まりにくく、メンターが次へ渡す文化が育つ。島という距離のハンディを、仕組みで上書きしている。


変化と未来:沖縄本島・糸満で描くモデル工場
変化は外へ向かう。うえざと木工は沖縄本島・糸満(いとまん)に新工場を計画し、用地取得と設計、融資の目処まで進めている。“見せる工場”を志向し、将来的にはシステム会社や研修機能が入る余地も視野に入れる。「デジタルファクトリーのモデル事業として運用し、沖縄本島の同業者へも門戸を開きたい」。島で磨いた現場オペレーションをテンプレート化し、地場に根ざす木工の新しい標準をつくる構想だ。初期は4~6名規模、営業を要にした立ち上げを想定している。
ここで鍵となるのが“営業”。本島では設計事務所、ゼネコン、店舗施工、行政窓口など案件の母数が大きい一方、競合も多い。「専門性が強い木工は広く撃っても意味がない。フォーカスして信用を積む」。現場理解と提案力を備え、丁寧な関係構築ができる人材――同社は、そんな“コミュニケーション力のあるの人財”を求めている。性別や年齢は問わず、むしろ粘り強く通い続けられる営業の素地があれば歓迎だという。
将来像は県内多拠点。糸満を皮切りに、中部・北部へと“地場密着の小さな工場”を展開し、それぞれの商圏に入っていく。「大手が勝ちにくい領域で、根を張る」。その核にあるのは、島で培ったDXと人の仕組み――在庫・図面・発注の即時化、Slackでの全社同期、全工程ローテとメンター制、そして“知ってもらう採用”。石垣で成熟させた運用を移植し、地域のつくる力を底上げする。
最後に、読者への提案だ。うえざと木工の門を叩く最短ルートは、まず三~四日のインターンで現場に入ること。タブレットの前で図面が動き、在庫が減った瞬間に発注が走り、工程が静かに回る様子を、この目で確かめてほしい。島の工場は、すでに新しい製造業の教室になっている。
【興味をお持ち頂いた方へ】 取材企業や仕事、石垣島移住に関心のある方は記事の「興味ある」を押してください! チャレンジ石垣島が、八重山地域産業で働く魅力をより丁寧にお伝えできればと思っております。


このプロジェクトの経過レポート
このプロジェクトの地域

石垣市
人口 4.76万人

チャレンジ石垣島が紹介する石垣市ってこんなところ!
♦︎石垣島ってどんなところ? 沖縄県八重山諸島の主島である石垣島は、東京から約2,000km、飛行機で約3時間半の亜熱帯の楽園です。島全体が美しいサンゴ礁に囲まれ、透明度抜群の海には色鮮やかな熱帯魚やマンタが泳ぐ世界有数のダイビングスポット。 夜空は「星空保護区」に認定され、光害の少ない島だからこそ見られる満天の星空は、都会では味わえない感動をもたらします。グルメも充実!「石垣牛」は濃厚な味わいで人気を集め、新鮮な魚介類や南国フルーツも豊富です。 そして何より、この島の宝物は「人」。温かく、のんびりとした島の人々の人情は、訪れる人の心を包み込みます。「イチャリバチョーデー(一度会ったら兄弟)」という言葉のように、初めて会った人とも家族のように接する文化が今も息づいています。
このプロジェクトの作成者
コンセプトは、「島から、世界を面白く」 〜石垣島のコラボ&発信拠点〜
チャレンジ石垣島は、世界で働く人たちを受け入れるワーケーション施設であり、イベントスペースを設けた石垣島最大規模のテレワーク施設です。 島内外の地域や世代を超えた人々がつながって、島の魅力や新しい価値観に触れながら様々なプロジェクトにチャレンジできる、まさに沖縄のチャンプルー文化を体現する石垣島の発信拠点。 人と、島と、地域につながる日本最南端のイベント&コワーキングスペースです。


















