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- 湖西に移住したリトグラフ作家〜琵琶湖漁業に向き合った制作活動〜
2022年に大津市和邇に移住した松元悠さん(以下|松元さん)にSMOUTライター三輪がお話をお聞きしました。松元さんは京都府宇治市出身の版画作家です。京都市立芸術大学大学院を修了されたのちに滋賀県大津市にある成安造形大学にて勤務。2021年、漁師さんとの出会いをきっかけに、琵琶湖を題材とした作品制作に取り組まれています。今回は、松元さんが漁業に惹きつけられた理由や、湖西での作家活動についてお聞きしました。
琵琶湖漁業との出会いが移住のきっかけに
―――三輪:和邇に移住した経緯を教えてください
松元さん:2つ理由がありました。1つ目が自宅にアトリエを作りたいという理由でした。
当時、大津市にある成安造形大学に勤めていたこともあって、湖西が移住先の候補になっていました。物件サイトを色々見て物件を探していると、たまたま今住んでいる家が掲載されていて、移住に至りました。なので、和邇という地域を限定して物件を探していたわけではなくて、アトリエを作れる広さや家賃面で条件に合う物件が和邇にあったという理由です。
2つ目の理由が、和邇漁港が近くにあったという点が移住先を決める上で後押しになりました。
―――三輪:和邇漁港というキーワードに驚きました。和邇漁港のちかくに住むきっかけや移住のあと押しになった理由を教えてください。
松元さん:2021年頃に駒井さんという和邇漁港の若手漁師さんに協力してもらって作品制作をしたことがきっかけですね。たまたま知人から駒井さんを紹介してもらって、漁業体験をさせてもらうことになりました。父が水産加工業の仕事をしていたこともあって、もともと漁業に興味があったんですよね。最初はただ漁業体験をしてみたいという興味関心だけでした。
でも実際にやってみると、漁業の魚を獲るという先の見えない行為が作品制作と共通している気がして、作品を作ってみたいなと思うようになりました。第三者の私と当事者の駒井さんが一緒にやることで何か面白いものが生まれるんじゃないかなと思って作品制作に取り組むようになりました。なので当時、琵琶湖漁業に関心が高まっていたこともあって漁港の近くという立地条件に惹かれましたね。
「里湖源五郎鮒物語(琵琶湖)」/松元悠/2022.
アトリエの製版機を使っている様子
漁業を題材にした作品制作のこと
―――三輪: 漁師の駒井さんとの作品制作の過程で漁師の仕事や環境について対話されるなか、どのような学びがありましたか?
松元さん:湖魚の生態や自然環境に関する知識面を補ってもらったり、漁師さんの生業に向き合う姿勢だったりを聞かせてもらいましたね。
例えば滋賀県では、持続可能な漁業のため魚別の漁獲規制を行なっていて、その際の選別はエリ漁師にとって時間のかかる作業だと聞きました。
あと、これは自分で調べたことですが、琵琶湖には「源五郎鮒」という人名のような名がついたフナがいます。昔、大津市の堅田にいた漁師さんの名前が由来になっていて、人間だった源五郎さんがフナになるまでを描いた異類婚の昔話もあることを知りました。
実際に私が漁のお手伝いの際に、出荷することができない源五郎鮒を1匹ずつ琵琶湖へ帰していたことを思い出しました。
私が琵琶湖漁業を題材にした最初の作品では、先ほどの「源五郎鮒」の昔話や、琵琶湖の生態系や漁業の継承について思いを寄せた記録を作品にしました。
―――三輪:駒井さんとの作品制作はその後どのように進展したのですか?
松元さん:最初の作品を作ったあとはクロモカードを湖魚と一緒に販売するプロジェクトをやりました。ただ私が作品を作るというのは漁師さんにはメリットがないなと思って、一つの版で何枚も刷れるという版画の特殊性を活かしたことがやれたらと。
―――三輪:クロモカードという単語を初めて聞いたのですが、どのようなものですか?
松元さん:クロモカードというものは、18世紀にヨーロッパで流行ったものだったんですけど。お菓子などの商品のおまけカードのことです。クロモカードは当時、リトグラフで刷られていたんですよ。
それが販売促進物になっていたり、アルファベットや文字とかを可愛くカードにして、子どもたちがそれを見て、言葉を学ぶなど教材としての役割も持っていました。
そこで、ただ商品の説明を載せるのではなく、湖魚の流通やその生態、歴史などを記載して、湖魚について学んでもらえるようなお魚カードを作りました。このカードは2種類制作していて、展覧会などで湖魚とセットで販売したことがあります。今後も種類を増やしていきたいなと思っています。
「湖魚とクロモカードセット その壱【氷魚】(表)」/松元悠/2022.
「湖魚とクロモカードセット その壱【氷魚】(裏)」/松元悠/2022.
今後やりたいこと
―――三輪:最後に湖西で今後やりたいことがあれば教えてください。
松元さん:自宅にアトリエを作ることができたので、そこを解放してリトグラフに触れてもらうきっかけづくりをしてみたいなと思っています。 版画作品を1から制作すると凄く時間がかかってしまうので、私の作品を観てもらったり、簡単な版を刷る体験をしてもらうような場所を作れたら良いなと。リトグラフは近代化に伴って衰退してしまったんですけど、かつては印刷技法として多用されていた過去がありました。なので、リトグラフの制作プロセスだけでも知ってもらえる場になれば良いですね。
アートインレジデンスにて刺し網漁の網を触っている様子
2022年第一回目のアートインレジデンス集合写真
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